『甦る相米慎二』という本があります。2001年に亡くなった映画監督の相米慎二やその作品についての研究本で、2011年に刊行されました。
その中に、『翔んだカップル』から『夏の庭』まで相米作品7本のプロデューサーを務めた伊地知啓という方のインタビューが収録されているのですが、薬師丸ひろ子主演映画の候補作として『通りすがりのレイディ』が挙がっていたことが出てきます。P.210。―― さて、二作目の『セーラー服と機関銃』の企画ですが、そもそも相米監督が自分で原作を選んだという証言がいくつかありますね。
伊地知 それはね、『翔んだカップル』をやる前の話。「これ、女優さんさえ見つかればできるんじゃないか」って相米が言ってきた。
―― では、薬師丸さんを主演として想定していたのではなく原作を見つけてこれを自分が映画化するってことの方が先なんですね。
伊地知 そう。赤川(次郎)さんが『幽霊列車』で受賞(オール讀物推理小説新人賞)した直後に出た本かな。主婦の友社からね。で、「うん、そうだね」って言って俺も読んで、自分の本棚にぽんと横積みにして置いておいた。そしたら、『翔んだカップル』が出来上がったころに、うちの娘が引っ張り出して読んだらしい。「お父さん、これ面白いよ」って言って持ってきたのが『セーラー服と機関銃』。「そうかい。なんで?」って訊いたら、「いや、『翔んだカップル』見たら、これ、面白いと思ったから」って言う。もう一度読み直して、なるほどねって思ってね。そのときには、『雪の断章』の企画をすでに始めていたし、それからもうひとつは新井素子の『通りすがりのレイディ』っていう、これも薬師丸でやれればいいかなと思ったりもした。そのへんを動かそうと思っていた矢先だったんだけど、『セーラー服』を読んだら、おまけに赤川さんというのはうちの団地に住んでるっていうから、それでそのままツッカケ履いてぽーんと行って。そのころはまだ本に住所が書いてあるんだから。無名だからね。「なんでしょうか?」「これ面白いから映画化に協力していただけませんか?」
非常に驚きました。
ただ、この話だけだと時系列がおかしいと思いました。
- 『翔んだカップル』1980年7月公開
- 『セーラー服と機関銃』1981年12月公開
- 『通りすがりのレイディ』1982年1月出版
『通りすがりのレイディ』が刊行されたのは『セーラー服と機関銃』の公開後です。
このことをtwitterでつぶやきましたら、編集者の方からコメントを頂きました。
.@akapon 『甦る相米慎二』担当編集者です。言及くださっていたのに気付きました。ご購読に感謝いたします。ご指摘の点ですが、仰有る通りです。事実関係の確証を怠った私の責任です。伊地智さんご本人に確認のうえ、以下のように修正いたします。→http://t.co/U142CC0U
— ed. azert (@editions_azert) May 21, 2012
.@akapon 『セーラー服と機関銃』よりも後の話ですが、相米慎二監督、薬師丸ひろ子主演で、新井素子『通りすがりのレイディ』を映画化するというプランじたいは、伊地智啓プロデューサーのアイデアのひとつとしてあった、ということですね。結局何も実現しなかったわけですけれども。
— ed. azert (@editions_azert) May 21, 2012
.@akapon なお、修正では「『雪の断章』は…また別の話。」としましたが、『雪の断章 情熱』実現の経緯は多少込み入っており、当該紙幅では説明しきれません。このあたりの話の活字化については他日を期したいと思っております。いずれにしましても、ご指摘に再度感謝申し上げます。
— ed. azert (@editions_azert) May 21, 2012
結局具体的な話には発展しなかったようですが、僕は当時薬師丸ひろ子のファンだったので、これが実現していれば! と思わずにいられませんでした。なお、この部分は第2刷で修正される予定だそうです。
『通りすがりのレイディ』については他にも、青田浩子主演で映画化の話が進んでいる、という投稿が当時の『ファンロード』に載っていましたが、こちらも実現はしませんでしたね。
最後に新井素子・薬師丸ひろ子両氏が一緒に写っている写真のあるページへのリンクを貼っておきます。